平成27年度 青少年教化指導者研修会(報告)

開催日:平成27年 6月18日(木)~19日(金)

西 育範老師 (三重県萬重寺住職)
西 育範老師 (三重県萬重寺住職)
落合博幸先生(特定非営利活動法人新潟セキュリティ協会)
落合博幸先生(特定非営利活動法人新潟セキュリティ協会)
杉本恭子先生(フリーライター)
杉本恭子先生(フリーライター)

会場:新潟県柏崎市「シーユース雷音」

講義1
西 育範老師 (三重県萬重寺住職)
演題:「国際ビフレンダーズ・熊野自殺防止センターの取り組み
    ~電話相談による自殺防止活動」

西育範老師には、電話相談による自殺防止の取り組みをご講演頂きました。 
講演内容は以下の通りです。

○平成17年度より活動を開始

○感情的な支えをするボランティア活動

○スタッフ:相談ボランティア3名 
 金曜日の19:00~23:00 2台の電話にて対応
  ※現在は休止中
 場所は、寺の庫裏とは離れた所

○告知の仕方:新聞に広告を掲載→説明会に25名の方が来てくれた
 新聞社が取材し、記事を掲載

○どのような相談が多いか
  「自殺したい」と言った方:6割
  「誰かと話しをしたい」 :4割
 ・複数の悩みを持った方が多い
 「もっと頑張りなさい」とは言えないし、言わない。
 仮に言った場合、「努力しても報われない」という答えが返ってくる。
 ・死を望んでいるわけではなく、「生きる」ということ、また今の生活に疑問を抱いている。
 ・現在ではなく、過去に生きている
  →今の苦しさを過去に見い出している
 ・何故死にたいのか「分からない」

○何故自殺する人が多いのか
 ・個人の時代
 ・権利主張の時代
 ・選択肢多様の時代
 ・不安の時代
  以上の事柄が、要因になっていることである。

○センターでは、相談者の話をよく聴くことを重視する。相談者は話をすることにより、頭の整理ができ、心が楽になる。

○センターでは、しないこと
 ・経済的、物質的な支援を行うこと
 ・病気の診断
 ・相談者を励ますこと
 ・アドバイスをすること
 ・相談者の考え、意見、決定したことを否定したり、同意すること

○心がけていること
 ・悩みをよく聴き、しっかりと受け止めること
 ・「よき理解者」になる
 ・人間を支えられるのは、人間だけである
 ・「生きる意志」を支えること
  →他人から与えるものではなく、その人自身から湧き起こるもの

以上

講義2・3
落合博幸 先生(特定非営利活動法人新潟セキュリティ協会)

 昨今、青少年(小・中・高校生)の年齢層の中で、メデイアによるトラブルが多発し、いじめに発展することを耳にします。
 今回の研修では、「ソーシャルメディア」の基礎から学び、ネットトラブルの対応もご講演頂きました。
 講演内容は、以下の通りです。


講義2  演題「ソーシャルメディアの基礎と可能性」
○ソーシャルメディアとは
 誰もが参加できる広範的な情報発信技術を用いて、社会的相互性を通じて、広がっていくように設計されたメディア

○実は昔からあった→「駅の伝言板」は多くの人の目に触れる可能性がある
             各寺院の「伝道掲示板」も同様のことが言える

○寺院関係の「Facebook」「Webサイト」「Twitter」を紹介

○ソーシャルメディアの種類
 SNS ― 人と人とのつながりを促進する会員制コミュニティサーブス
 ソーシャルブックマーク ― よく見るウェブページなどを登録し他人と情報を共有できるサービス 
 口コミサービス ― モノやサービスの評判、使い勝手などの情報を検索・閲覧できるサービス
 Q&Aサービス ― ウェブサイト上に質問を投稿し、他のユーザーから回答を得ることができるサービス
 匿名コミュニティ ― ユーザーが自由に参加できる情報交換の場
 写真共有サービス ― 写真を投稿・共有できるサービス
 動画共有・配信サービス ― 動画を投稿・共有できるサービス
 ブログ ― 個人で利用できる日記的なウェブサイト

○ソーシャルメディアの特性 
 情報の質)
  フロー型:タイムラインにリアルタイムな情報がどんどん流れていくが、体系づけられた情報にはなっていない(Twitter,LINE)
  ストック型:情報の更新頻度はそれほど高くないが、ある程度体系的に蓄積されていく。(ブログ)
  中間型 :Facebook

 情報の広がり)
  拡散型:配信された情報が短時間で多数の人に伝播していく。(Twitter,LINE)
  蓄積型:広がりはそれほど大きくないが、いつまでも残り、閲覧される。(ブログ)
  中間型:Facebook

 情報の入手)
  受動型:自分の意志とは関係なく情報が入ってくる(Twitter,Facebook,LINE)
  能動型:自分から検索するなどして情報をとりにいかないと得られない。(ブログ)

 情報の共有)
  インタレストグラフ:実社会のつながりとは関係なく、興味・関心が共通する関係の中で情報が共有される。 (Twitter,ブログ)
  ソーシャルグラフ :実社会のつながりと同等の関係の中で情報が共有される(Facebook, LINE)


講義3  演題「ネットトラブルに関する生徒指導上の問題とその対応」
○今、ネットで何が問題になっているか?
 依存・詐欺・いじめ・福祉犯罪・情報流出・高額請求・著作権法違反
 デマ・誹謗中傷・炎上など

○「依存」「いじめ」「炎上」について 
 ・マズロー(心理学者)が定義した欲求5段階のうち「所属欲求(つながり欲求)」と「承認欲求」を満たすために、ネットという場所が使われている。
 ・欲求を満たし続けるために「依存」し、依存しているからこそ、そこから排除されれば「いじめ」となる。 
 ・承認欲求が社会のルールを逸脱した時「炎上」となる。

○書き込みやメールでの誹謗中傷やいじめ
 事例 :SNSやプロフなどのいじめ
 SNSやプロフ、ブログなどで、身の回りに起きた出来事を発信したり、友達の書いた日記などにコメントを書き込んだりする子供たちが増えています。
 <原因>
 SNSを利用していた小学6年生(男子)のA君、SNSには、多数の友達が登録されていました。ある時、A君は、冗談で友達B君の悪口をSNSに記入、B君には、見られないように設定していましたが、ほかの友達C君からA君に伝わりました。
 <結果>
 A君の書き込みに激怒したB君は、自分の日記にきつい言葉でA君への文句を書き込みました。SNS上の友達にあっという間に広まりました。落ち込んでしまったA君4は学校に行けなくなりました。
 <上記に対する指導のポイント>
 a.相手の気持ちを考える
  ・軽い気持ちで書き込んだ言葉でも、相手をひどく傷を付けてしまうことがあります。相手が書き込んだ内容を読んで、どのような気持ちになるかをよく考えましょう。
 b.インターネットの特性を理解する
  ・インターネット上で発信した情報は、多くの人にすぐ広まります。SNSではグループ限定で公開しているつもりでも、グループ内の友達を通じて、知らない人に伝わることがあります。一度拡散した情報は完全には削除できません。
  ・インターネット上の書き込みは、調べれば書き込んだ人を特定することができます。
 c.悪質な誹謗中傷やいじめは犯罪となる可能性があることを理解する。
  ・書き込み内容が悪質な場合、犯罪とあんることがあります。インターネット上で誹謗中傷を行ってはいけません。
 d.SNSやプロフを確認する。
  ・子供が利用しているSNSやプロフがどのようなものか、スマートフォンなどで、実際に確認してみましょう。
 e.子供の心の変化やいじめの兆候に注意を払う。
  ・家庭での会話を大切にし、子供が相談しやすい環境を作るとともに、いじめの兆候を早めに察知できるように注意を払いましょう。
 f.文字によるコミュニケーションの注意を教える。
  ・友達との文章でのやり取りは端的になりがちです。それだけ相手に誤解を与える可能性があることを教えましょう。

以上の他にも、様々なケースをご教示頂きました。
現在の「ソーシャルメディア」は、多種多様であることに驚かされるとともに、それに伴ってトラブルも多様化していることを学びました。
我々は、進んでいるメディアを常に学習し、青少年の為にも、また自分自身の為にも対応する必要性を感じました。

講義4・5
杉本恭子先生(フリーライター)
「寺報」は、お寺からの布教伝道・発信に大切なものです。そして、発信方法として、最も歴史があるものと言っても過言ではありません。
しかしながら、檀信徒に配布をしても、しっかり読まれているか心配をしている寺院も多いのではないかと思います。年始めに配布し、お盆の棚経にお伺いするとお仏壇に置かれ、読まれた形跡がない。よく聞くお話です。
そこで、寺報づくりに大切なことを学びました。


講義4 「お寺の課題解決につながる寺報づくりとは?」
○本日の目標:お寺の課題を解決する、新しい寺報のコンテンツをひとつ以上考える。
LECTURE1 寺報づくりの基本的考え方
 寺報アンケート結果より)
  ・お檀家さんとの信頼関係を築くため
  ・お寺への親しみを感じてもらうため
  ・住職の考え方を檀家に周知させるため
  ・お寺仏教への関心を高めるため
  ・お寺へ足を運んでもらうきっかけ作り
  ・若い世代への広報活動をしたい
  ・遠方の檀家さん、行事に参加しない檀家さんとの最後のつながり
   寺報=縁ある人々をつないでくれる大切なツール
 
○一般的な寺報の考え方
  <布教のために発行するもの>
  ・法話で仏法を伝える
  法要など行事予定で布教の機会をつくる
   →読者視点で考えられていないため、発行後の手応えが薄くマンネリ化しやすい。 <ワクワク感がない>
 
○基本的な寺報の発行目的は?
  ・お寺コミュニティ内のコミュニケーションを活性化する。
  ・これからのお寺の方向性を共有する。
  ・法要・行事の情報、仏教の教えを伝える。
 
○メディアづくりの前提となる「情報と関係性」について考える。
  ・関係性が近いと、少ない情報でも充分に伝わる。
  ・関係が遠いと、多くの情報がないと伝わらない。
 
○メディアの役割
  ・関係性を媒介すること
  ・関係性に応じて、伝え方(媒介する情報量や方法は変化する)
 
○寺報づくりのための現状分析
  ・読者との関係性は? (どのくらい以心伝心の関係か?)
  ・読者と共有したい情報は?(その情報は、現時点でどのくらい共有できているか?)
 
○寺報の読者とは?
  ・お寺を支える力になってくれている、お寺コミュニティの人たち。
  ・お寺コミュニティ=お寺のご縁
    住職・寺族・檀信徒・参拝者・観光客・地域の人々など、お寺に関わりを持つ人たち=お寺を守り、支えてくれている人たち
 
○お寺とお寺コミュニティの関係
  ・見えないけれどお寺を支える<根っこ>の力
  ・お寺の根っこに働きかけるのが寺報。
 
○だから、寺報はお寺を変えられる!
  ・「どんなお寺をつくりたいか?」を共有できる!
  ・寺報は、お寺を支える"根の力=関係性の力"を高めるための強力なツールになる!
  ・寺報は、住職とお檀家さんの関係だけでなく、お檀家さん同士もつなぐ。
 
○寺報にできること
  ・お寺コミュニティを活性化すること。
   →お寺を元気にし、次世代へと受け継ぐ力を蓄える。

☆住職の寺報からみんなの寺報へ


LECTURE2 "ご縁温度"から読者を設定する
 ご縁温度とは:深縁(熱い) 中縁(ほどほど) 初縁(まだまだ) 浅縁(冷たい)
 
○「ご縁温度が下がる」=お寺の課題
  ・お檀家さんが離れていく・・・
  ・お檀家さんが高齢化・・・
  ・若い人がお寺に来ない・・・
  ・行事・法要が盛り上がりなくなってきた・・・
  ・寺族がお寺に関心を持てなくなる・・・
 ☆お寺づくりにおける課題解決とは、「ご縁温度を上げる」ことに尽きる。

 ○今、あなたのお寺が温めたいご縁=寺報の読者です。


講義5
4名のグループに分かれ、
先ず、「あなたのお寺の自己紹介をして下さい。」
  ~あなたは、旅先であなたの住む街や、お寺のことをまったく知らない人に出会いました。相手はどうやら仏教にも詳しくないようです。どんなふうにあなたのお寺を紹介しますか?~

それぞれ、準備された用紙に紹介文を書き、発表しあいました。
お寺の周りの様子を、情緒豊かに表現する方、特色あるお寺の行事を楽しく紹介する方と、一人で考えていては浮かばない発想に、お互い感心し、目からうろこの発表会でした。

次に「若い読者のための寺報アイデアを考える」
  ~今日、あたなが選んだ読者を軸として、寺報の発行目的を考えてみましょう。また、読者とお寺が共有できる話題から、「お寺が伝えたいこと」×「読者がお寺に求めること」を絞り込み寺報の記事を企画して下さい。

上記のことを用意されたワークシートに、各自書き込み発表しました。
 ワークシートには、
・寺報の読者はどんな人? 
  →今日、あなたが選んだ「若い読者」はどんな人ですか?できるだけ詳しく、人物像を書いて書いてみて下さい。
・記事企画の目的 
  →あなたの記事を読んで、読者にどんな変化が起きてほしいですか。できるだけ具体的に書いてください。
・読者ニーズを分析 
  →読者から質問・相談されること、期待されていることは?
   読者が興味を持っていること(お寺以外も含む)
・あなたが伝えたいこと×効果的な伝え方
  →あなたが一番伝えたいことを最も効果的に伝える方法は?(ヒント:あなたの特技やスキルを活かす方法を考えましょう)

上記を、グループで発表しあい、その後一つにしぼり、先生がお持ち頂いた、フリーペーパー等をもとに、記事の企画。

グループ毎に、発表して頂きましたが、深く考えられた企画案に会場全体が盛り上がりました。
「三人寄れば文殊の智慧」といわれますが、人が集まって話しをすると自然とアイデアが生まれるすごさを感じました。(真剣に、よく聞いてくれるお陰かなと思います)

最後に、先生より編集のお話しを頂きました。
 ○デザインのくふう
  ・理想のデザインを見つける
    ミニコミ誌やフリーペーパーを研究する。
    読みたくなるのはどんなものか?
    写真と文章のバランスは?
    紙やや印刷はどんなものがよいか?
  ・読者のことを考える
    高齢者には文字を大きく。
  ・お寺のイメージを伝えるデザインは?
    ねくもり? 信頼性? 希望するイメージに合うメディアは?
 
○読者との向き合い方
  記事は読者への「贈り物」です。
   大切なひとへ贈り物を選んで届ける (興味・好きなもの・サプライズ)
   旅先から大切なひとに手紙を書くように(ワクワク、すごくうれしかったことを共有したい)
 
○メディアは「ボトルメール」です。
  お釈迦さまの時代から2500年もお坊さんは伝え続けてくださいました。
  すぐには伝わらなくとも、いつか必ず、思いもよらないときに手にとってれる人がいます。

以上